展示会『文博界隈の歴史と文化』
京都文化博物館と地域の活動の成果
京都文化博物館 学芸課学芸員 村野正景さん
私は考古学の学芸員で、もともと発掘調査・研究に従事してきました。調査場所は、中米のマヤ文明や、日本・中国などで、標高4000m近い所まで出かけたりしたこともあります。今、当館2階の総合展示室で『文博界隈の歴史と文化』という企画展示を行っています。この企画は、私にとって重要な取り組みです。この展覧会は地域資源の見直しや紹介を目的としていますが、このような展覧会は考古学調査と同じで一人ではできません。色んな方にお手伝い頂いています。
中米で考古学調査をおこなうと、ウチにはこんなもんあるから見てほしいとか、何か解らないので教えてほしいとか、地域の方々からお声かけ頂くことがあります。それで見せて貰いに伺って親しくなり、逆に地域のことを教えていただくという事がありました。地面の中だけではなく、いろんなところに大切にすべき資源があるのだということに気づくことになりました。それがある意味、私の成功体験となり、京都にきてから、これまで博物館が主に行ってきた展示以外の事も、もう少し取り入れなければならないのではないかな、と思ったのがこの取り組みのきっかけです。
そんな中、約3年ほど前から、三条で活躍する「京の三条まちづくり協議会」さんと一緒にお仕事をしましょう、ということになりました。そして実際に今、ここで住んであるいはお商売をされている方々にお話を聴いて、いろんな歴史や文化に関することを教えて貰う地域調査の取り組みを開始しました。
いろいろと教えていただいて、改めてビックリしています。三条通りは平安時代に三条大路と言う形で都の主要な道路として基礎がつくられ、それから連綿とこの通り沿いには人々が住んできました。江戸時代には、江戸への出発点あるいは江戸からの旅人のゴール地点になるなど様々な点で重要な場所でした。そういう歴史が今につながっていることを感じました。
強調しておきたいのは、私たちは、単に「古さ」で価値判断をしているのではないことです。地域の人たちが大事に思っている「思い」、こうなって欲しいという「願い」、そこにこめられた「記憶」、それらを大切に守り育てたいとされていることこそ大事にしたいと思っています。今回はそれを正面に据えた展覧会となっています。少し極端な言い方かしれませんが、物だけあってもそれほど大きな意味はなく、それにまつわるお話・ストーリーが大事なんじゃないかと思いますし、それが面白い。
また、情報過多になるので展示内容には組み込めませんでしたが、調査では京都の暮らしや設えなどをうかがいました。この時期にはこうするものという決まり事としてだけではなく、こういう意味があるのだということを丁寧に教えて頂いて、とても勉強になりました。これからも協議会さんと一緒に聴き取りなどの活動も続けて、形に纏めていきたいと思っています。