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放送日時 2017-07-01

震災特別放送 _熊本地震と歴史的建造物

番組名:きょうと・人・まち・であいもん

投稿日時 2017-07-01 13:15

出演者情報

担当)放送担当部会  江坂幸典 伏木道雄 竹山ナオユキ

音声

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【熊本地震を取上げた放送】昨年の大分大会の際に、熊本建築士会の持田美沙子さんから、熊本県五木村での体験談をお聞きしました。村の面積の96%が森林である同村は、以前より村の資源である木を使った組立式のベッドなどを大学と共同開発などしており、熊本地震の発生の際には、仮設住宅にそれらのベッドが活用できたとのことです。災害があってから動くのではなく、常日頃からの人的なネットワークの構築などの活動が大事だと感じました。益城町立広安西小学校の井出文雄校長からもお話しをお聞きしました。熊本地震では幸いにも建物には大きな被害はなかったのですが、地震の影響で通常のカリキュラムができなかったことや、子供たちの心のケアにご苦労なされたようです。同校は益城町の指定避難所になっており、避難者と子供たちとの交流の場であり、地域住民との連携の拠点となるなど、地域にとっての学校の重要さが伝わるお話しでした。

【歴史的建造物】熊本地震で被災した県内の歴史的建造物は、その25%ほどが修復に際して専門家の助言が必要な程に被害を受けたようです。ここで言う歴史的建造物とは、国宝や重文指定された建造物のことで、今後も現状保存され、やがては復旧されると思いますが、建造物として価値のあるものでも無指定のものは、除却されています。今のように、被災してから本格的な調査があり、対象の評価がされる現状をみると、多くの歴史的建造物が失われた阪神淡路大震災や東日本大震災の教訓は、基礎自治体にあっては、充分に活かされていないように感じられます。歴史的建造物からは、それらが被災することでの新たな学びもあります。先の持田さんからの報告では、壁は崩れているけれど骨組みは堅牢なままだという伝統的な木造建物が多見されたということです。また熊本城の例では、石垣の曲線が、従来考えられていたような防衛の面でなく、耐震対策として決められていたことも分かってきました。当時のすぐれた経験知によって、建物は支えられてきたと言えるでしょうね。文化庁では、近年2回の震災の教訓から、文化財ドクターを養成するに至りましたが、そのはじめての派遣が熊本地震の被災地調査でした。大規模な文化財ドクターの派遣事業が行われる前には、熊本をはじめとした建築士会九州ブロックが連携した調査が実施されたようです。同じように関西でも、各府県の建築士会の災害時等を想定した連携が必要に思われます。阪神淡路大震災を経験された兵庫ヘリテージ機構(H2O)では、他に先んじて、歴史的建造物の情報公開と情報の活用に取組んでおられます。グーグルマップ上に兵庫県内の建造物の位置情報と建物概要が登録され、その情報の一部は公開され、加えて当のマップを利用した建物の被災調査の試行などです。京都府建築士会のヘリテージ委員会では、兵庫の事例を参考にしながら、町家の悉皆調査のように街なかに繰り出し、建物のファサードの写真やデジタルマップ上への位置情報のプロットなどを始めたところです。我々がまず(例えば学区単位で)残したい建物の地図をとりまとめ、その後、地域に住まわれる方々と情報共有するのはどうかと話をしています。万が一、災害が起きた後には、それを復旧のための参考資料にしていただけますし、平常時は地域住民や当の建物の所有者が、自分のマチや我が家を見直す契機になればと考えます。我々が残したいと思う建物の所有者は、その価値に気づいていない場合も少なくないです。一方では、既に学区単位で、マチの中の良い建物を地域住民自らが評価している事例があります。そこでの情報は概ね地域内に留まりますが、マップに落とし込み広く共有されれば、ここにはこんな建物のある良いマチだなどと、地域を知ってもらうことにもなるのではないでしょうか。