「本野精吾と栗原邸」
先日、京都市山科区御陵の疎水沿いにある「栗原邸(旧鶴巻邸)」を訪れる機会に恵まれた。
今から87年前、1929年(昭和4年)竣工のこの建物は、京都を中心に活躍した建築家・本野精吾の
設計であり、京都高等工芸学校(現・京都工芸繊維大学)の校長を務めた染織家・鶴巻鶴一の邸宅
として建設されたものである。
当時の最先端工法である「中村式鉄筋コンクリート建築」による特殊なL字型のコンクリートブロック
で建てられたこの住宅は、その文化財的価値の高さから、2014年(平成26年)には国の登録有形文化財
にも指定されている。
本野精吾は、昭和初期に活躍した建築家であり、19世紀以前の様式建築からの脱却を目指して、日本に
おけるモダニズム建築の黎明期を築いた建築家として有名である。モダニズム建築とは、建築は用途や
素材に従って設計するべきであるという理念のもと、機能性、合理性を重視した近代建築のひとつのス
タイルであり、無装飾で抽象的な形態を用いながら、コンクリート造や鉄骨造という当時の新しい技術
で建造されているのが、その特徴である。
さらに、「栗原邸」においては玄関ポーチのデザインやインテリアにおいて、ウィーン分離派
(セセッション)やアール・デコなどのモダニズム以前の造形要素がとりいれられ、他に類をみない
独自の美しい建築作品となっている。写真は、「栗原邸」の玄関ポーチ部分。コンクリートの質感を
丸い柱と継ぎ目のない曲線梁で表現した美しい造形は、外観の一番の見せ場となっている。